年に数回髪を切る。頻度は恐らく他の人と比べると少なく、3ヶ月~6ヶ月に1度だ。それもカットのみ。
いわゆる金にならない客の一人だという自覚はある。
美容室はいつもだいたい決まっている。というよりも一度行った店がよほど気に入らないときを除いて、その店に通い続けるのが私のスタイルだ。最早流儀といっても過言ではない。
今回はそんな私が大阪で髪を切る最後の美容室に選んだお店と一人の美容師を紹介したい。
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10年前までは自分で髪を切っていた
大阪に出てきて早いものでもう13年ほどになるだろうか。はっきりとした年数はもう覚えていない。
当時、私は自分で髪を切っていた。セルフカットなどというかっこいい呼び名はなかったように思う。
理由は特にないのだが、強いて上げれば「美容室に行くのが面倒だったから」だろうか。
※当時は22、23歳ぐらいで月収が手取り35~40万、家賃・食費・光熱費がすべて無料という好条件の職場だったため、美容室代がなかったわけではない。
セルフカットのやり方
セルフカットというと難しいんじゃないか?と思われるかもしれない。
私のやり方は簡単だ。100均で買った櫛みたいなカミソリでザックザクすいていく。ただそれだけ。
後ろは少しコツがいるが、これも慣れてしまえば何とかなる。それに後ろは自分では見えないから気にならない。大した問題ではない。
ヘアカッターでのセルフカットに慣れてくると、ハサミを使った本格的なカットを試したくなる。100均ですきばさみを買ってきた。
※今はセルフカットセットなんてものが売られているようだ。10年前に比べたらセルフカットをする人も増えてきたということだろうか。
「セルフカット やり方」でググれば簡単な手順がいくらでも見つかった。私はすきばさみを縦にサクサク入れていくやり方が気に入った。
そうして2年以上、髪は自分で切り続けた。何も問題はない。そう思っていた。
仕事を辞めた時、気持ちを切り替えるために髪を切った
条件のいい仕事だったが、退職せざるを得ない事件が起きてしまった。すべて自分の撒いた種だし、このタイミングで辞めなくともいつか辞めていたと思う。
この時、私は完全に人間不信に陥っていた。
現在も続いている高校時代からの親友の言葉さえ、私には真っすぐ受け取めることが出来なかった。
信頼していた相手。その相手に裏切られた。ただそれだけのこと。
周りからはレイプ犯のような扱いを受け、誰かに相談しようにも友人もいない。何より親友でさえも疑っている状態で誰の言葉に耳を傾けることが出来るだろう。
数年ぶりに行った美容室で出会ったメガネの美容師
今でもわからない。どうして髪を切ろうと思ったのか。
恐らく気持ちを切り替えたかったのだろう。全く関係ない誰かに話を聞いて欲しかったのかもしれない。
そうして私は梅田にある美容室に行った。梅田を選んだのは都会だからだ。センスの塊のような美容師に私を変えて欲しかったのかもしれない。
担当に付いたスタイリストは細身でメガネをかけた年上の男性だった。
彼は不思議なオーラをまとっていた。よく言えば「明るい」、悪く言えば「チャラい」。本人は否定するだろうけれど。
彼はどんな髪型にしたいかを聞いてきたので、私は雑誌をめくり適当に一つのスタイルを指さした。
そしてカットが始まった。
自分のことを吐き出す場所
彼の不思議なところは、気兼ねなく何でも話せてしまうということだ。これはすごいスキルだと思う。
今起きていること、過去のこと、これからどうしようと考えているか…。時系列もぐちゃぐちゃに私は頭に浮かんだことを話しかける。
彼の素敵なところは、答えを真剣に考えるあまり、手が止まることだ。美容師としては失格じゃないだろうかといつも心配でならない。
カットの出来は私にとってあまり重要ではない
こう書くと多分本人は激怒するかもしれない。私にとって美容師とはある程度のスペック・テクニックを持った人たち。すなわちプロだ。
美容師全員をdisるわけではないが、そのテクニックにそれほど大きな差があると感じたことがない。
彼は私の髪の生え癖を知って、こうカットした方がいい、こうするとセットしやすい、などとアドバイスをしてくれる。大変ありがたい。だが、これは数回通えば恐らくどの美容師も出来ることではないだろうか。
私にとって一番大事なのは、空気感なのだ。
カットが終わり、私は言った。
ーなんかお坊ちゃんみたいだね
彼は答える。
ーそう見えへんように努力してんねんぞ
私は髪を切るのが好きではない
私は髪を切るのが面倒で嫌いだ。高校時代は完全にロン毛で、笑い飯の髪が長い方みたいな頭だった。
1度目の会社は営業職だったので、髪は黒。短く定期的に切っていた。
退職後は金髪にした。ピアスも空けた。少しだけ自分がイケてるような気がしていた。
2度目の来店は半年後
梅田で髪を切ってから、約半年。さすがに伸びてきた髪を切りに再び梅田を訪れた。
前回のスタイリストを今回はこちらから指名した。指名料がかかっていたかどうかはわからないが、あの不思議な彼とまた話がしたかったのだ。
彼は覚えているだろうか?
一日に10人の髪を切るとして、半年で約1,800人。もちろん新規ばかりではないし、休みの日もあるだろうから実際にはもっと少ないだろう。それでも約1,000人程度は新規の客を相手にしているだろうと思う。
そんな不安をよそに顔を見て、彼は笑顔を向けた。
「もう来ないかと思ったよ」
私の髪を切る周期が長いだけだ。
年4回の顧客になった
それからは最低3ヶ月に1度は髪を切ってもらいに通った。カラーはしなかったが、たまにパーマをお願いしたりもした。
私はいつしか再就職していた。
美容師にも異動がある
当たり前の話だが、オーナーであったり、店舗が1つしかないという場合を除けば、美容師もサラリーマンだ。他店舗に異動することはある。
ある日、予約をしようと店に連絡すると、異動した旨を告げられた。
「彼は川西店に移動になりましたよ。」
梅田店は大阪府、川西店は兵庫県だ。髪を切りにわざわざ他県まで行くことになる。
私は迷うことなく、川西店に電話をし、予約を取った。
川西店で私の予約はいつも木曜の最終枠だった
私が住んでいる場所から梅田店は電車なら15分程。そこから徒歩で10分程だったので、合わせて30分程度。それが川西店になると、車で1時間以上かかることになる。
川西店のカットラストは19時。仕事の定時が18時。急いで向かってもギリギリ間に合わない。
そんな中、木曜日はナイトデーと称して1時間ちょっと長く営業していた。
私の予約はいつも決まって木曜の最終枠になった。
彼は客が私一人になっても嫌な顔ひとつ見せず、いつも通り仕事をしてくれた。最後の客が帰り、スタッフも帰り始める中、私のせいで時々手を止めつつ、髪を切ってくれる。
再び異動、池田店へ
彼は再び異動になった。次は池田店だ。
川西店よりは少しだけ近くなったが、車でやはり1時間。相変わらず木曜の最終枠が私の予約枠だった。
彼との決別
特に理由があったわけではない。もちろん彼との時間は楽しいのだが、忙しくなり、時間が取れなくなったというのが一番大きい理由だろう。
私は髪を切る場所にこだわりを持たない。
出張中に時間が出来たから…という理由で二度と来ないであろう店に飛び込んで切ってもらうこともある。
宮崎県と静岡県で行った店はその後も出張のときに行った気がするが。
それからは地元の美容室に通うようになった。いつでも空いているし、何より近い。
彼からはそれからも数回、メールが届いた。
「異動になったから、よかったら来ないか」というよくある営業メールだ。
大阪で最後に切ってもらうなら彼しかいない
最後に彼に髪を切ってもらって約2年の月日が流れた。
私は7月いっぱいで大阪を去る。
彼からのメールを探し、最後に来ていた「異動になった」メールを見つけた。日付は1年前だった。
大阪西区(九条)で働いていた
彼は大阪市内に戻っていた。
ホームページからスタイリストを探し、彼の名前を確認すると、すぐに予約を入れた。
メールで事前に連絡なんてしない。サプライズだ。
カットのみ。スタイルはお任せで。
こう告げ、すべてを彼に委ねる。問題はない。2年ぶりでも彼ならちゃんとわかっている。
カットが終わり、私は言った。
ーなんかカツラみたいじゃない?
彼は答える。
ー相変わらず一言多いなw
これが彼と私のスタイルなのだ。
大阪西区(九条)のヘアサロン「トップヘアーベイエリア店」
今回のストーリーはすべて実話です。トップヘアー梅田店で働いていた「向田 要」さんと私の物語です。
彼の名誉のために書いておきますが、彼の腕が悪いということはありません。カットが終わって何か一言ケチをつけてしまうのが私という人間なのです。
当時あった梅田店も池田店も今はもうなくなってしまいました。思い出の店がなくなるのは少しだけ寂しいですね。
向田さんもアチコチ異動になり、今は九条駅前のベイエリア店で落ち着いているようです。
私にどれだけの影響度があるかはわかりませんが、10年以上の付き合いの最後の恩返しとして、彼のいるお店を紹介させてもらいました。
向田さんを指名してもらって、「ブログで見たよ」って言ったら、多分飴ちゃんぐらいは貰えると思います。お近くの方はぜひ一度行ってみてください。
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Special Thanks
今回、この記事を書くにあたり、ご本人の名前・店名・写真を掲載する許可をいただいています。無断転載はご遠慮ください。
写真の男性は向田さん本人です。さすがに初めて出会ったころのものはなかったので、先日撮らせてもらいました。
撮影にご協力いただいたスタッフの方、お客様方、本当にありがとうございました。